EtherCATとは?初心者にもわかる仕組み・特長・使用場面

工場では、ロボット、モーター、センサー、検査装置など、さまざまな機器が連携して動いています。これらの機器を正しく動かすには、制御装置から各機器へ、指示や状態を素早く正確に伝える必要があります。
EtherCAT(イーサキャット)は、そのために使われる産業用の通信規格です。一般的なLANにも使われるEthernetの技術をベースにしながら、工場の機械制御に必要な速さ、タイミングの正確さ、接続のしやすさを実現しています。
本記事では、EtherCATを初めて知る方に向けて、基本的な仕組み、一般的なEthernetとの違い、主な特長、使われる装置、導入時のポイントを、専門用語をできるだけ抑えて解説します。
EtherCATとは
EtherCATは、工場の機械や装置を制御するために開発された通信規格です。正式名称はEthernet for Control Automation Technologyで、日本語では「制御・自動化のためのEthernet技術」と考えるとわかりやすいでしょう。
身近な例に置き換えると、一般的なEthernetは、パソコンでWebサイトを見たり、メールを送ったりするための道路です。一方、EtherCATは、工場の機械を決められた時間どおりに動かすための専用レーンのような役割を持ちます。
| 項目 | わかりやすい説明 |
|---|---|
| 主な目的 | 工場の機械や装置へ、指示と状態を素早く正確に伝える |
| 使われる場所 | 製造装置、ロボット、工作機械、検査装置など |
| 大きな特長 | 高速通信、正確なタイミング合わせ、柔軟な配線 |
| 通信速度 | 100MbpsのEthernetを効率よく利用する |
EtherCATは、単に大量のデータを送るための通信ではありません。少量の制御データを、必要なタイミングで、遅れをできるだけ少なくして届けることを重視しています。
なぜ工場の機械に専用の通信が必要なのか
一般的なオフィスのネットワークでは、Webページの表示が少し遅れても、大きな問題にならないことが多いでしょう。しかし、工場の装置では、わずかな通信の遅れやタイミングのずれが、動作の精度や製品の品質に影響する場合があります。
例えば、複数のモーターでロボットアームを動かす場合、各モーターへの指示がばらばらのタイミングで届くと、動きがずれたり、停止位置が安定しなかったりする可能性があります。
工場内で求められる事項
・素早く伝える ー センサーの変化にすぐ反応し、機械を適切に動かすため
・同じ間隔で伝える ー 毎回の動作を安定させ、仕上がりのばらつきを抑えるため
・同じ時刻に動かす ー 複数のモータ-や機器をそろえて動かすため
・異常を見つける ー 通信や機器の問題を早く発見し、停止時間を減らすため
EtherCATは、こうした機械制御に必要な条件を満たすために設計されています。
EtherCATを構成する機器
EtherCATのネットワークは、主にマスター(MainDevice)とサブデバイス(SubDevice)で構成されます。
| 呼び方 | 役割 | 具体例 |
|---|---|---|
| マスター (MainDevice) |
全体へ指示を出し、情報を集める | 産業用パソコン、制御用コンピューター、PLCなど |
| サブデバイス (SubDevice) |
指示を受けて動き、状態を返す | モーター制御機器、センサー、I/O機器、計測機器など |
マスターを「指揮者」、サブデバイスを「演奏者」に例えると、マスターが全体のタイミングを決め、各サブデバイスがその指示に合わせて動くイメージです。
※従来はサブデバイスを「スレーブ」と呼ぶ表現も広く使われてきました。本記事では、現在使われることが増えている「サブデバイス」を基本表記とします。
EtherCATの通信の仕組み(オンザフライ)
データを止めずに、通り道で読み書きする
EtherCATの代表的な仕組みが、オンザフライと呼ばれる処理です。これは、通信データが各機器の前でいったん停止するのではなく、通過している間に必要な情報を読み書きする方式です。
回覧板に例えると、一般的な通信では、回覧板を一人ずつ受け取り、内容を確認してから次の人へ渡します。EtherCATでは、動いている回覧板から自分に必要な情報を読み、自分の情報を書き加えながら次へ送るイメージです。

この方法により、機器ごとに何度も通信を繰り返す場合と比べて、待ち時間を少なくしやすくなります。また、接続する機器が増えた場合でも、通信を効率よく行えます。
EtherCATの主な特長
1 高速通信 : 1つの通信データを効率よく使用。短い間隔で指示と状態をやり取り可能2 同期 : 各機器の時刻を合わせる仕組みにより、複数のモーターなどをほぼ同時に動作可能
3 柔軟な接続性 : モーター、センサー、I/O機器などが同一のネットワーク上で動作
4 配線自由度 : 一直線、分岐、ツリーなど装置に合わせた接続方法を選択
5 状態管理 : 各機器の動作状態や通信異常を適宜取得可能
正確なタイミング合わせとは
EtherCATには、各機器が持つ時計を細かく合わせるDistributed Clocks(分散クロック)という仕組みがあります。
例えば、2台のモーターを同時に動かしたい場合、通信が速いだけでは十分ではありません。2台が同じ時刻を基準に動くことが重要です。分散クロックは、ネットワーク上の機器の時刻をそろえ、動作のずれを小さくするために使われます。
EthernetとEtherCATの違い
EtherCATと一般的なEthernetは、どちらもEthernet技術を利用しています。
しかしながら、主な目的が異なります。
| 比較項目 | 一般的なEthernet | EtherCAT |
|---|---|---|
| 主な用途 | Web閲覧、メール、ファイル共有など | 工場の機械や装置の制御 |
| 重視する点 | さまざまなデータを柔軟に送信 | 決められた時間内に安定して伝達 |
| 通信の遅れ | 多少変化しても影響の少ない用途が多い | 変化を小さく抑えることが重要 |
| 機器の同期 | 高精度な同期を前提としない | 複数機器の高精度な同期に対応 |
| 接続の考え方 | 一般的にEthernetスイッチで接続 | ライン型や分岐型など構成可能 |
EtherCATは「インターネットを速くする技術」ではなく、機械制御の通信を安定させるための技術です。そのため、オフィスのLANをそのままEtherCATとして利用できるわけではなく、対応したマスター、サブデバイス、設定が必要です。
接続方法とネットワーク構成
EtherCATは、装置の形や機器の配置に合わせて、複数の接続方法を選べます。この接続の形をトポロジーと呼びます。
EtherCATでは、ライン型、ツリー型、スター型、リング型があります。
一般的なEthernetケーブルを利用できる構成もありますが、使用環境、ケーブル長、ノイズ、可動部の有無などに応じて、産業用途に適したケーブルやコネクタを選ぶことが重要です。
EtherCATが使われる主な分野
EtherCATは、多くの機器を速く、同じタイミングで動かす必要がある装置に向いています。
| 分野 | EtherCATが役立つ理由 |
|---|---|
| 産業用ロボット | 複数の関節に使われるモーターを、同じタイミングで滑らかに動かせる |
| 半導体製造・検査装置 | 多くのセンサーや駆動機器から、短い間隔で情報を集められる |
| 工作機械 | 複数の軸を正確に動かし、加工精度を保ちやすい |
| 包装・印刷機械 | 搬送、位置合わせ、印刷などの動きを連動させやすい |
| 検査・計測装置 | 複数の測定データを同じタイミングで取得しやすい |
| FA・自動化設備 | センサー、I/O、モーターなどを一つのネットワークにまとめやすい |
これらの装置では、通信速度だけでなく、毎回同じタイミングで安定して動くことが重要です。EtherCATは、装置全体の動作をそろえるための通信基盤として利用されています。
導入時に確認したいポイント
EtherCATを導入する際は、通信規格だけでなく、装置全体の構成や必要な性能を整理することが重要です。
| 確認項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 接続する機器 | モーター、センサー、I/Oなど、何を何台接続するか |
| 通信の間隔 | どの程度の短さで指示や状態を更新する必要があるか |
| 同期の精度 | 複数の機器を、どの程度正確に同時動作させる必要があるか |
| マスター環境 | 使用するOS、CPU、産業用パソコン、PLCなどが対応しているか |
| 配線と設置環境 | 距離、ノイズ、温度、振動、可動部などに合う配線か |
| 設定・診断方法 | 立ち上げ時や異常発生時に、状態を確認できるツールがあるか |
| 将来の拡張 | 機器の追加や装置の派生モデルへ対応できるか |
EtherCATは高性能な通信規格ですが、導入すれば自動的に装置性能が上がるわけではありません。マスターの処理性能、ソフトウェア、接続機器、配線、設定を含めて設計する必要があります。
よくある質問
EtherCAT導入に関するお問い合わせ
JEPICOでは、EtherCAT対応製品の選定、マスターソフトウェア、ネットワーク構成、評価、装置への組み込みなどに関するご相談を承っています。
装置の用途、接続する機器の種類や台数、必要な通信周期などが決まっていない段階でも、お気軽にお問い合わせください。
参考情報:
・EtherCAT Technology Group(ETG)
・acontis technologies:EtherCAT通信プロトコルとは
・acontis technologies:EC-Master










