次世代防衛・宇宙用SFF規格「VNX+(VITA 90)」徹底解説【第1回】

防衛および航空宇宙分野における電子システム設計において、現在世界的な潮流となっているのが「MOSA(Modular Open Systems Approach:モジュール式オープンシステムアプローチ)」の推進、およびシステム全体の「SWaP(Size, Weight, and Power:サイズ、重量、電力)の徹底的な最適化」です。
これまで航空機、車両、艦艇、宇宙機など、物理的な制約が厳しいプラットフォームにおいては、3U VPX(VITA 46/65)がデファクトスタンダードとして確固たる地位を築いてきました。しかし、無人航空機(UAV)や超小型衛星、航空搭載用の各種インテリジェントセンサーなど、搭載スペースや重量の制限がさらに厳しいアプリケーションの増加に伴い、より小型で信頼性の高い標準化モジュールのニーズが急増しています。
このような高度なSWaP要件に応えるため、2026年2月にANSI/VITAにて正式承認された最新のオープン規格が、「VNX+(ANSI/VITA 90.0-2026)」ファミリーです。
本連載では、VNX+規格の全貌について、関連する規格(VITA 90.0から90.7)に基づき、図表を交えながらわかりやすく解説します。第1回となる今回は、VNX+の基本コンセプト、先代規格VITA 74(VNX)からの着実な進化(物理的フレームワーク)、および実装の核となるフォームファクタとコネクタの基本構成についてご紹介します。
1. VNX+(VITA 90)の概要と基本コンセプト
「VNX+」は、小形・堅牢システム向けの先行規格であるVITA 74(VNX)が培ってきた物理的フレームワーク(伝導冷却筐体)の長所を踏襲しながら、現在の高度なデジタル処理に対応できるよう規格化された、次世代の超小型(SFF:Small Form Factor)オープンシステム規格です。 
VNX+が提唱する主要なアプローチ:
| SWaPの徹底的な最適化 | 3U VPXと比較して容積および重量を大幅に削減。 ファンレス・完全密閉による伝導冷却(Conduction Cooling)に適した構造 |
| 高速シリアルインターフェースへの適合 | PCI Express Gen4(16 GT/s)や 10G/40G Ethernetをはじめとする高速差動信号の確実な伝送を可能にするレイアウト |
| 同軸および光インターコネクトの統合 | 高密度の同軸コンタクト(GPCC、NanoRF)および光MTフェルールモジュールをスロット仕様内に標準定義 |
| SOSA™およびMOSAへの整合 | オープンアーキテクチャのガイドラインに適合し、将来の技術更新やモジュールの相互運用性を確保 |
2. 先代VITA 74(VNX)からの着実な進化
VNX+(VITA 90)は、旧VNX(VITA 74)で採用されていた外形寸法の枠組みをベースとしていますが、電気的なピンアサインやシグナルインテグリティの設計は新しく見直されています。そのため、物理的な収容サイズは同等でありながら、電気的な互換性は持たない(非互換である)設計となっています。
この設計変更の最大の目的は、昨今のセンサデータ処理に求められる広帯域信号をノイズなくクリアに伝送することにあります。ピンの配置(ピンアサイン)を最適化することで、クロストーク(信号間干渉)を抑え、高速差動信号や高周波RF信号を安定して同一コネクタ上で伝送できる優れた信頼性を実現しました。
また、システム監視機能(システムマネジメント)に関しても、VPXファミリーで実績のあるVITA 46.11(IPMC等)に準拠した管理チャネルが盛り込まれており、小形でありながら大型システムと同等の高度な診断や保守管理が行えます。
3. PIM(Plug-In Module)のフォームファクタと高さの定義
VNX+システムは、PIM(Plug-In Module)と呼ばれるPIMシェルに格納された基板モジュールと、それらを収容・相互接続するバックプレーン(BP)で構成されます。VITA 90.0規格では、物理寸法ルールとして、幅・奥行寸法の他、以下の4種類の高さ寸法を定義しています。
① シングルハイト(Single-Height)モジュール
| 13mm PIM | 最も薄型の超小型モジュール | 4行・200ピンのHSDC※を採用 |
| 19mm PIM | 標準的な構成のモジュール | 8行・400ピンのHSDCを採用 (または高周波・光コネクタ同居用の320ピン、240ピン) |
※HSDC:High-Speed Data Connector
② ダブルハイト(Double-Height)モジュール
隣接する2スロット分の領域を占有し、中央に1.00mmのスロット間隙(インターモジュール・ギャップ)を設けたサイズです。
| 27mm PIM: | 13mmのダブルハイト(4行コネクタ) |
| 39mm PIM | 19mmのダブルハイト(8行コネクタ) |
規格書(VITA 90.0)では、高さを有効活用するために、実装コンポーネントの高さ方向(基板の表裏)に応じて以下の2つのバリエーション(スタイル)が規定されています。
| Style A | Basecard PCBがシェル底面付近に位置 | 基板の上側(コネクタ実装面)に、より背の高いコンポーネントを実装可能 |
| Style B | Basecard PCBがシェル天面付近に位置 | 基板の下側(裏面)に背の高いコンポーネントを実装可能 |

4. 高速データコネクタ(HSDC)と光・同軸用コネクタモジュールの統合
VNX+の実装仕様における大きな特徴は、デジタル信号用のHSDCコネクタの列数を最適化してスペースを作り、そこに光(オプティカル)や高周波同軸(RF)用のコネクタモジュール(CM)を並べて一体化できる点にあります。
| HSDC 400ピン (8行×50列) |
コネクタモジュール 無し | コネクタの全ピンをデジタル・電源信号に使用するタイプ。最大のI/O数を確保でき、主にCPUや大容量メモリボードに適しています。 |
| HSDC 320ピン (8行×40列) |
コネクタモジュール 有り | コネクタの横幅を10列分削減。空いた右側スペースに「Half-CM(ハーフサイズ・コネクタモジュール)」を1基配置可能です。 |
| HSDC 240ピン (8行×30列) |
コネクタモジュール 有り | コネクタの横幅を20列分削減。空いた右側スペースに「Full-CM(フルサイズ・コネクタモジュール)」を1基、またはHalf-CMを2基配置可能です。 |
これにより、バックプレーンに対して押し込むだけでアライメント(位置合わせ)が自動的かつ高精度に完了する「ブラインドメイト(Blind-mate)」接続として一体化され、メンテナンス性と堅牢性が高められています。
5. 相互運用性を支える「3つのセグメント構造」
VNX+のピン配置は、ボードメーカー間の設計の共通化を促すため、機能ごとに3つのセグメント(S0, S1, S2)に体系化されています。 
S0:Utility-Segment(ユーティリティ・セグメント)
電源および管理系の信号。システム管理用の VAUX(+3.3 VDC)、主電源である VS1(+12 VDC)や VS2(+5 VDC)、さらに地理的アドレス(GA)、リセット(SYSRESET*)、REFCLK、UART、USB2.0、および設定自由度の高い「UEIO(Unique External I/O)」が配置され、標準化の基盤となっています。
S1:Communications-Segment(コミュニケーション・セグメント)
ボード間の超高速シリアルデータ伝送チャネル。PCI Express、各種Ethernet、sFPDPなどの主要デジタルファブリックが定義されます。
S2:Overlay-Segment(オーバーレイ・セグメント)
アプリケーションや搭載モジュールの役割(プロファイル)に応じて、最も柔軟にピンアサインを定義・カスタマイズできる領域です。
- HSDC 400ピン構成におけるメザニンの割り当て:
HSDC 400ピン(8行×50列)構成では、アパーチャによる列の削減がないため、S2セグメント領域(列31〜50の計20列分、160ピン)のすべてのピンが電気信号ピン(メタルピン)としてフルに利用可能です。この物理特性は、PIM(ベースカード)の内部にM.2やMini-PCIe、あるいはVITA標準規格に準拠したカスタムの小型メザニンカード(ドーターカード)を搭載して機能拡張を行う場合に最大のメリットを発揮します。メザニンカード用の高速I/O信号線(PCIeレーン、SATA、USB、あるいは各種のアナログ/デジタル信号)を、S2セグメントのピンへとダイレクトにマッピングしてバックプレーンへ引き出すことが可能です。これにより、PIMを柔軟な信号分配キャリアとして動作させ、システムのI/O能力を拡張できます。 - 320ピン/240ピン構成における割り当て:
これに対し、320ピン(8行×40列)や240ピン(8行×30列)の構成では、HSDCコネクタの列が削減され、空いた領域(10列分または20列分)にVITA 90.2やVITA 90.7に準拠する高密度同軸(RF)や光ファイバー用のコネクタモジュール(CM)が配置されます。
6. 熱・実装設計:VITA 90.4(PIM.4)におけるシェル形状と熱伝導経路
VNX+が過酷な防衛・航空宇宙環境に適応できる重要な鍵は、モジュール(PIM)で発生した熱を効率よく筐体(シャーシ)のコールドウォールへ逃がすための高度な伝導冷却(Conduction Cooling)設計にあります。ここではVITA 90.4規格におけるウェッジロック採用シェルの物理形状を解説したうえで、それらから構築される熱伝導経路についてご紹介します。
6.1 VITA 90.4(PIM.4)規格が定義するウェッジロック採用シェル形状
モジュール自体の容易かつ迅速な挿抜性(着脱性)を確保しながら、同時に伝導冷却に必要な強固で安定した接触面圧をスロット内部で均一に確保するために定められたのが、VITA 90.4(Cooling and Mounting Systems)が定義するウェッジロック(PIM Retainer)を統合した「PIM.4」シェル形状です。
- 物理形状の特徴: このPIM.4シェル形状では、シェルの一方の側面に、ボルトによる締め付けで拡張・膨張動作を行うウェッジロック機構(PIM Retainer)を収容するための、専用 of 受圧段差(段付き受圧形状)やガイド溝が配されています。ボルトを締め付けると、ウェッジロックがせん断方向にせり出してガイドレールを外側に押し広げる力を生み出し、モジュールを反対側の筐体壁(コールドウォール面)へと強力に押し当てる非対称な物理構造となっています。
6.2 物理形状から構築される熱伝導経路
ウェッジロック(PIM Retainer)を搭載した構成では、ボルトを締め付けることで、スロット内部に役割の異なる以下の2種類の放熱経路が明確に構成されます。
- 直接接触による主要放熱経路(ウェッジロックと反対側の面):
ウェッジロックを締め付けると、ウェッジブロックの拡張力(ガイドレール壁面を押し広げる力)が発生し、その強力な反作用(押し付け力)によって、ウェッジロックが配置されている側とは「反対側」の平坦なPIMシェル側面が、筐体のコールドウォール(ガイドレール内壁面)に対して強大な面圧力で隙間なく強力に圧着されます。これにより、接触面における微細な空気層や隙間が物理的に押し潰され、接触熱抵抗が極限まで低減された極めて高効率な直接熱伝導経路(主要熱的界面:Primary Thermal Interface)が構築されます。 - ウェッジロック自体を介する放熱経路(ウェッジロック側の補助熱経路):
ウェッジロックを締め付ける際、シェル側面の受圧段差形状において、シェル筐体とウェッジブロックが高圧下で強固に噛み合い、さらにウェッジブロック自身もガイドレールの反対側壁面へと強圧で押し当てられます。この密着状態によって、金属製のウェッジロック自体が熱伝導のバイパス(サーマルブリッジ)として機能し、PIMシェルの受圧段差からウェッジロック本体を経由してシャーシへ熱を逃がす「補助的な熱伝導経路」が形成されます。
7. 米国GET Engineering社の先進的VNX+ロードマップとジェピコの取り組み
株式会社ジェピコが長年日本国内で展開している米国GET Engineering社(1982年創業、米国カリフォルニア州エルカホン)において、防衛・航空宇宙向けのSWaP制約が厳しいシステムに対応する、最新のVNX+ボードおよびシステムの設計・開発プロジェクトが開始されました。
GET社は、防衛向けデジタルインターフェース技術や機能強化システムの分野で確かな実績を有し、設計から組立、検査、試験までを米国の自社工場で一元管理している米国メーカーです。
7.1 GET社が開発をスタートしたVNX+ SBC i7(プロセッサモジュール)
現在開発中の「VNX+ SBC i7」は、SWaP制約の厳しいプラットフォームでのハイパフォーマンス処理を目的に開発された、伝導冷却型の極小組み込みボードです。
- 第13世代 Intel Core i7 搭載:高性能Pコアと高効率Eコアを組み合わせたハイブリッドマルチコアアーキテクチャを採用し、低消費電力と高い持続性能を両立。
- 大容量メモリとストレージ:オンボードのLPDDR5メモリ(最大32GB、直付け)に加え、SATA SSDインタフェースおよびオプションのM.2 NVMe SSDをサポート。
- 豊富なI/Oと堅牢仕様:最大2.5 Gb Ethernet(TSNサポートSKUあり)、PCIe、USB 3.x/2.0、UART/SPI/I2C/GPIOを実装。VITA 90.4準拠のウェッジロック固定に対応。
7.2 高い信頼性を支えるパワーモジュールおよびシステム開発
GET社はSBCに加え、VITA 90.3に準拠した電源システム周辺の設計も合わせて進めています。これらはAC/DC入力フィルタ(電磁干渉対策)や一時的な瞬停(ホールドアップ)保護を備え、防衛車両や艦艇・航空機内の不安定な電源環境からシステムを守る中核部品です。
さらに、これらのコンポーネントをまとめた5〜7スロットのシステム全体(堅牢小型コンピュータ)の設計も並行して開始されています。
私たちジェピコは、国内のお客様の要件に合わせた先行技術相談、プロトタイプの仕様共有まで、GET社の国内総代理店としてワンストップでサポートいたします。
技術資料のダウンロード・先行技術相談に関するお問い合わせ
Jepicoでは、GET Engineering社のVNX+ロードマップ情報や、開発プロジェクトに関する事前仕様書、システム構築のご相談を、国内パートナーとして随時承っております。
●GET社技術資料
GET_VNX+ systemv2.pdf
GET_VNX+ SBC i7 v4.pdf
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